忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

交差点 2

結婚しても仕事は続ける。
 これが、どうして「かわいそう」なの?

 信号が赤に変わり、私はブレーキを踏んで両手をハンドルから離した。
 外は抜けるような青空だが、きっとうだるように暑いのだろう。エアコンの効いた車内にいると、外の様子は全く分からない。
 吹き出し口の向きを少し変えて、顔面に当たっていた風をそらせた。

 昨晩、学生時代の友人3人と久しぶりに会った。独身は私だけで、3人とも昨年から今年にかけてばたばたっと、結婚した。

 彼女たちと電話で話すときから感じていた奇妙な違和感が、実際合って同じ時間を過ごすうちにもっと強まったことに私は気がついた。

 彼女たちの話題に、少しついていけなくなっているのだ。


 結婚式をあげるまでのドタバタ劇、のようなものは、三者三様、聞いていていつもおもしろかった。彼女たちも、私が婚礼アドバイザーをしていることを承知で、おもしろおかしく話す。
 どのカップルも、結婚が決まると多かれ少なかれ、家族、親類、お金、彼側との価値観の違い、などなど色々直面するものだ。こういった壁にぶち当たらないカップルは、100%いないと、私は豪語できる。

 ただ結婚してしまった後、3人とも仕事を辞め専業で主婦業をやっているのだが、彼女たちの関心のある話題が、全て「子ども」に変わってしまっていることに、私はついていけなくなっていた。

 それは私にとって未知の領域でもあるからだ。

 このタイミングで出産したいからどうのこうの、子育てに有利な学区を探すと同時に家を建てる計画がどうのこうの。

 あれだけ、楽しいこと、おしゃれなこと、美しいことに敏感だった3人が、今度は全身全霊で「家族」を一から作り上げ、その歴史を築いていくことに命を捧げているように見える。

 結婚をすると、こうも変わることができるものなのか。

 決して蔑んでそう思っているわけではない。ただただ、私は敬服していた。
 これが、大人になるってことなのかな。漠然と、感じる。

 私が彼女たちの会話に入っていけないまま、感嘆の声を上げるしかない状態でいる所へ、一番最近に結婚した有紀がこう聞いた。

 「美香のさ、今のお仕事は、結婚してからも続けられるところなの?」
 「うん、結婚しても続けてる先輩、何人かいる。」
 「子どもができても?」
 「うん、育児休暇もあるよ。ただ勤務時間が不規則だし、土日が大事になってくる仕事だから、よっぽど実家の手助けがある人じゃないと、そのまま正社員で続けていくのは厳しいみたい」
 「だよね、やっぱり・・・・・・」
 「それでもこのお仕事が好きだったり、向いてる人は、会社の意向と本人の希望が合えば、数年はパートで残ってもらったりしてるみたい」
 「パート、になるよね・・・・・」
 3人とも、いきなり神妙な顔をして頷く。
 「・・・・・・みんなはさ、ばりばり仕事やってたのをきっぱり辞めたでしょ、それは、自分の考えで?」
 私は、ずっと聞く機会がなかったことを、この際思い切って聞いてみた。すると驚いた答えが返ってきた。
 「ずっと辞めたかった。だから、今家のことと旦那のことだけ集中できて、すごい幸せ」
 「上司にあれこれ言われるんじゃなくて、全て自分でペース配分して決めれるからね、家の仕事。節約に燃えれば、その分貯蓄っていう数字に表れるから」
 「うん、女性だからって昇進しにくかった前の職場に比べると、すごくやりがいがある」

 私は思わず圧倒された。そう、主婦の仕事はまるで一人親方のように、全て自分で決めてがんばれることなのだ、と。

 「私のお母さんが昔、‘主婦業は砂の城’って言ってたのを覚えてるんだけど」
 私はそう切り出した。
 「砂の城は作っても作っても波にさらわれて壊される。主婦の仕事も、やってもやってもまた一から、って」
 私は、彼女たちを労うつもりで言ったのだが、そうは取ってもらえなかったらしい、ムッとした顔で有紀がこう返した。
 「確かにさ、やって幾らもらえる、っていう金銭での評価はないよ。でもさっきも言ったけど、小さな努力が貯蓄に繋がるし、子どもができて家庭を作るって、あのバカみたいな会社で働いているときとは比べ物にならない充実感がある」
 「・・・・・・」
 それは分かっているよ、と返そうとする暇もなく、3人の中で一番口数の少ない沙羅がこう言った。
 「美香は、今のお仕事は手に職だし向いてると思うんだけど、結婚したらどうするの?辞める?続ける?」
 「・・・・・・続けたいよ」
 新堂さんの顔が一瞬浮かぶ。結婚なんて、まだまだ彼との間に話題になったことはない。けれど、結婚、の二文字で浮かぶのは、彼の顔だけだった。
 「続けたいんだ。旦那さんになる人が、きちんと仕事持ってても?」
 「?」
 あまり質問の意味が分からず眉をひそめた。沙羅は再度、言った。
 「結婚したら、少し自分を休ませたくない?働かなくても、食べていけるんだよ、一応。なんだか、美香、かわいそうだよ、自分も、旦那さんになる人も」
PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

プロフィール

HN:
クエ
性別:
非公開

カテゴリー

P R