ここ数カ月で、今日ほど「疲れ」を感じた日はない、と、半ば呆れた思いで祥吾は足もとに目を落とす。
スーツのズボンのポケットに両手を突っ込み、いつもの彼より少し速度を落とした歩き方で、会社の地下にある駐車場を1人歩いている。
このうす暗い照明のもとでは、彼の昼間に見せる、知性と思慮深さに少し野性味を混ぜたようなキレのある表情は、あまりうかがえなかった。
腕時計に目をやると、もう午後10時を過ぎていた。
とある企業の、技術職として入社して10年が過ぎ、その間彼はまさに猪突猛進、不屈不撓の精神で自分の技術力を磨いてきた。
同期たちが数人、激務で疑心暗鬼になり心を折らせていくなか、祥吾は努めて、「人間の心」を忘れないことを自分に言い聞かせ、それでも大きな組織や人間関係の闇の中を足を取られそうにはなりながら、なんとか踏ん張ってきた。
健全な肉体には健全な精神が宿る。まさにそれを体現するかのように、彼のその姿勢に、周りは答え、結果もついてきた。
今年に入って、彼は新しい製品の開発チームリーダーに抜擢された。
やりがいのある大きな仕事だ。未知のモノを作りだすこと自体、ワクワクする。
そのことに加え、たくさんの人材のトップとして自分の限界以上の力を絞り出すことに、祥吾はたまらない充実感を感じながら、日々の膨大な仕事量と向き合ってきた。
そんな彼でも、やはり壁にはぶつかる。
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